会社がTCFDに取り組むことに。担当は何をしたらいい?
2022年4月に一部追記しました。
気候関連に関する自社の財務へのインパクトを把握し開示することを求めるTCFD、新聞やニュースでも目にすることが多いとおもいます。開示が推奨される項目は多岐にわたり、1部署では判断できないことがほとんどです。このページでは、自身が担当になった時、何から手を付けたらいいのか、誰を巻き込んだらいいのかなどを共有します。現在、日本は、世界で一番対応企業数が多い状況になっており、各業界とも次々と対応が進んでいますのでますます身近になりますね。
TCFDそのものの内容は一次情報を当たることをお勧めします。また、業界により業界団体や行政からガイドラインが発行されているケースが多いので、ご自身の業界でもあるかどうかご確認ください。不動産業界にいるので、その時の進め方を記録していきます。
TCFDとは
TCFDとはTaskforce on Climate-related Financial Disclosures 「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」です。気候変動が企業活動や金融安定に対する脅威だという考え方からできています。気候変動がもたらす企業に対する「リスク」及び「機会」の財務的影響を把握し開示することを狙いとした提言です。企業が自主的に情報開示に対して適用することを想定した提言です。
TCFD提言の利用者は、まずは投資家・貸付業者・保険会社であり、その次に格付機関、株式アナリスト、証券取引所、投資コンサルタントとなっています。つまり、金融セクターの企業評価の担当者が、企業に開示してほしい財務情報について、体系的かつ理解しやすい形で企業側に示すために、TCFD提言が開発されました。
本来の目的は、TCFDの検討を通じて、気候変動がもたらす自社への影響を話し合い、さらにその影響に対する対応策を検討することをが目的です。
こうすることで、投資家が投資対象の企業やビジネスが将来起こりうる気候変動の脅威をどうとらえて、どう向き合っていて、対応策があるかなどをの情報を集めて、投資判断に用いることができます。投資にかかわらず取引をするか否かでもTCFD提言に基づく開示を行っているかなど見られるようになってくるでしょう。(2022年4月追記)
シナリオを用いた分析
気候変動がもたらす自社への影響をどう考えていくか、用いられるのが「シナリオ分析」という方法です。多くの企業が、地球の気温上昇が4℃になる場合、1.5℃から2℃程度になる場合の世界において自身の企業に対する影響を描いています。4℃シナリオとは、経済を優先し何も手を打たない場合に地球の平均気温が21世紀末に4度上昇するというシナリオで、「物理リスク」と呼ばれる直接的な気候災害の影響を受けやすいというシナリオです。一方、2℃以下となるシナリオは、パリ協定に沿って各施策を推進した場合、温度上昇を抑えられたケースのことです。この場合、世の機運としても気候変動に対応することが推進されるため、企業同士の評判、環境対策をしていない企業への投資がされないなどの「移行リスク」と呼ばれる世の中のシフトチェンジによる影響が大きいです。一方で、行政の支援や技術開発のコスト減、さらに積極的に環境に対策に取り組むことで企業の発展につながるという「機会」も見出すことができます。
開示の推奨内容
開示内容として、推奨されているのは①ガバナンス、②戦略、③リスクマネジメント、④指標と目標です。開示のフォーマットは決まっていませんが、開示推奨項目に沿って企業独自で開示内容を作成していきます。不動産業については国交省がガイドラインを策定しています。他の業種においても関連省庁がガイドラインを策定している可能性がありますので、ご参考にしてみてください。
TCFDとは(TCFDコンソーシアム):https://tcfd-consortium.jp/about
不動産業に対するガイドライン(国土交通省策定):https://www.mlit.go.jp/common/001396711.pdf
国内でTCFDの開示が義務化
国内では、2022年度からプライム市場に上場する企業には開示が実質義務付けられることになりました。
また、現在金融庁内では、上場企業や非上場企業の一部の約4,000社が提出する有価証券報告書を提出している企業に対しても、有価証券報告書での環境情報開示の記載を義務付ける検討も進んでいます。(今後アップデートあれば追記します)
日本では2022年4月から一部の上場企業で、主要国の金融当局が立ち上げた「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の提言に基づく気候変動リスクの情報開示が実質的に義務づけられる
2021年10月14日 日経新聞
社内で巻き込むべき部署、メンバー
TCFDは事業と気候変動の関連を多角的にとらえ、情報を開示する必要があります。最終的に開示する内は、企業の評価にかかわるので、役員や社長レベルで確認をする必要があります。まずは、検討を進めるうえで社内横断的なメンバーを集める必要があります。
専門的な知識が必要となるのは以下の部署(人材)です。
- 環境問題などを扱う部署:既に企業に課される環境への負荷の報告や取り組みを行っている部署(例:不動産業界の場合は省エネ法や、自治体の条例によりエネルギー使用量の報告が義務付けれられています)
- 経営企画部:企業の経営方針を策定する部署
- 経理部:有価証券報告書の提出を行う部署、投資家への説明を実施する部署、財務影響の基礎となる情報を持っている部署
- 総務部:社内組織の業務分掌を把握している部署、取締役会の事務局を担う部署、
- リスク管理部署:リスク管理を行っている部署
- 広報部:企業の開示情報を把握している部署、外部からの評価に対しての専門知識を有する部署
- 人事部:社内組織に対して専門知識を有する部署
検討ステップ
TCFDの開示までのステップです。
0.コンサルティング会社を起用
コンサルティング会社を検討します。自社内のみで実施する場合、情報の整理やリサーチにかなりの作業量が生じます。可能であればコンサルティング会社を起用するのがスムーズでしょう。
1.社内のチームメンバーを集める
上記のメンバーを集めます。まずは全員の知識レベルを合わせて、当事者意識を持ってもらうために説明会を実施しました。今後、役員も巻き込み開示内容を検討することになるので、担当のみでなく課長レベルにも情報共有をするとスムーズです。
2.他社事例を勉強
日本のTCFDの開示企業数は世界一位です。同業他社がいる場合は参考にすることができます。気候変動が業界にもたらす影響は似た部分があります。他社と違う取り組みがあるとリスクや機会の内容も変わってきます。自身の開示案を作成する前に確認すると良いでしょう。合わせてチーム内にも共有すれば皆でイメージを共有することができます。
3.検討バウンダリを決める
第一関門です。事業に対してシナリオ分析をする際、どの範囲を検討するかを決めていきます。不動産の場合は、物件の立地(国内外)、種類、業態(賃貸か分譲か)など、企業それぞれシナリオ分析をした際にそのシナリオが8割から9割適用されるような網羅できるような線引きをすれば十分かと思います。例えば、全種類のアセットを対象にするが国内物件のみとする、などという決め方です。
4.TCFD推奨開示項目と現状のギャップを分析
ここから作業が始まります。TCFDで開示が推奨されている項目に対して、自社がどのような状態なのかを書き出してみます。余裕ですぐにでも開示できるこもくもあれば、全く対応していない内容もあるはずです。対応の可否は今後検討するので、まずは現状分析という観点で整理します。CDPの回答から引用できる部分もあります。この作業は各部の協力が不可欠です。それぞれ部署に割り振り、現状を正しく把握していきます。(この時点で、あまり盛りすぎないことが重要だと思います)
5.企業に対する重要な気候変動の要因を特定する(キードライバー)
4と同時並行で検討を進められます。今後シナリオを作っていくにあたり、気候変動による様々な要因が企業に影響をもたらします。その要因をリストアップし、シナリオを作るにあたり考慮すべきかそうでないかを判断しながらシナリオ作りの元情報を整理します。要因の区分としては「市場の変化・技術の進歩」「政策・法規制の変化」「評判(レピュテーション)の変化」「物理的リスク」があげられます。それらを起因に何が起こるか、その影響が企業にとって大きいか小さいかをメンバーで協議しながら決めていきます。同時に同業他社の動向も確認すると良いでしょう。
ー以下、筆者もプロジェクト実施中のため、以下の具体内容は後日追記しますー
6.シナリオを策定する
シナリオを想定していきます。4℃シナリオと2℃以下のシナリオを作成します。上記5で重要度が高いと上げた要因をシナリオに組み込みストーリーを作ります。例えば不動産の場合「政府の目標に達さない環境性能の低い物件の空室率上昇・賃料低下が予測される。」「自然災害の激甚化に伴い湾岸の物件が浸水する」という具合です。
7.シナリオに応じた財務インパクトを算定
上記を用いたシナリオに対して財務的なインパクトを出していきます。例えば、不動産の場合は賃料下落による収益減、また建設工事費の高騰などが考えられますが、それぞれの金額が企業に対してどの程度を占める数値なのかを把握します。合わせて、機会をとらえた場合の収益増、資産価値向上分を分析します。起点となる社会変化→影響因子→事業への影響→財務影響 という流れで分析していきます。
8.既存の対応策と今後の対応策の検討
4のギャップ分析により不十分な部分に対して対応策を作ります。既に対応を実施しているものも書き出します。既に実施している取り組みは業界内での競争優位性に寄与するものとなるでしょう。現状で、対応策が無い場合は、大きな方針を定め各部署の具体的な取り組みに落とし込み、アクションとして経営戦略に含ませていきます。この段階では実際に何ができるのかまたその際のコストなどの影響がどの程度あるのかを経営陣とも
9.開示情報の作成
上記をまとめて開示情報を作成していきます。TCFDが推奨する開示項目 ①ガバナンス、②戦略、③リスクマネジメント、④指標と目標に沿った開示が望ましいですが、段階的な開示という方法をとることもできます。経営陣と相談の上、開示内容のスタンスを決めていく必要があります。また、段階的といえど①ガバナンスや③リスクマネジメントについては社内の組織を一定程度整理し公開できる状態になったうえで情報開示することが望ましいです。④についてはSBT(Science Based Target)の目標を引用している企業が多いです。 SBTでも目標の範囲を決めますが必ずしもTCFDのバウンダリと揃っている必要は無いようです。
あわせて、どのように開示するか会社のホームページ上にて開示をするのか、財務諸表やIR情報に添付するのかの検討も必要です。主には、企業のホームページ上に掲載している事例が多いです。(2022年4月追記)
10.社内承認
開示する内容を経営陣に諮ります。企業によってかかる時間が変わるかと思います。また、途中段階でも経営陣を交えて議論をしておくとスムーズ化と思います。とくに7,8に差し掛かったあたりが望ましいかと思います。私の会社はどのくらい時間がかかるかはわかりませんが、企業カラーによって開示の書き方も変わってきます。
開示以外の実施事項(2022年4月追記)
TCFDへの賛同
TCFD提言に沿った開示を行う際には、TCFDへの賛同表明が必要です。賛同表明後すぐに開示が求められるわけではありませんが、組織体として正式にTCFD提言に賛同し開示に向けて準備している意思表示となります。社内で開示のタイミングを決める際に賛同のタイミングも決めると良いでしょう。例えば、株主総会までには「賛同」を表明しその後開示準備を実施する、開示と同時に賛同する、など企業の自由です。
賛同はTCFD本体のWEBページから実施します。書面への捺印やサインなどは不要で、必要事項を入力しすぐに賛同が可能です。なお、賛同するとTCFD本体のWEBページでSupporerとして企業の情報が公開されます。
入力すべき事項は、
【企業情報】Organization name(企業名)、Sector(業界)、Industry(産業)、Region(地域)、Country(国)、Website URL(WEBサイトのURL)、Market capitalization(株式時価総額)、Assets under management(運用資産残高)
【担当者情報】Firstname,Lastname(担当者名)、Email(Eメールアドレス)、Phone(電話番号)、Role(部門)、Title(役職)
□「組織の情報が賛同者として公式なTCFDのウェブページに掲載されることに同意します。私は、自分の組織をTCFDサポーターとして追加し、TCFDに関する最新情報を受け取ることに同意する権限を持っていることを表明します。」をクリックして「Submit(提出)」です。
【TCFD賛同ホームページ】(英語です)
https://www.fsb-tcfd.org/become-a-supporter/
TCFDコンソーシアムへの参加
TCFDコンソーシアムは日本国内でのTCFD普及のための団体です。TCFDへの賛同をもって参加することが可能です。年会費は無料です。多くの企業が参加しており、計570団体(2022年3月25日時点)が参加しています。同業界の他社を検索してみると、大手はほとんどが参加しているようでした。参加するとTCFDに関する情報収集や啓発の情報を入手することができるようになります。
TCFDコンソーシアムはこちらから入会申し込みが可能です。
検討期間めやす
初めての開示に際しては、だいたい半年程度+社内調整機関がかかると想定すると良いかと思います。一旦、半年のスケジュールで動いており途中まで順調に進んでいますが、後半は担当のみで判断できないことが多いのでどうなるかわかりません。プロジェクトが進むに従い理解度も深まると思うのでこの記事も随時更新していきます。
頑張りましょう~